【公募】平山夢明杯 佳作作品を公開!



先月発表したもう一編の佳作「ともしび」を公開します

先週の「GORE」に続いての掲載です。両作品の感想は こちらまで →


「ともしび」    原 悠


「GORE」    藤咲段座




◎各作品への講評/平山夢明


「アニマル・ナイトレイト」   小笠原ユウイチ

食べた肉によって顔が化ける男という設定だが〈珍妙〉の域を越えていない。また主人公が人の顔に戻るために行う儀式によって、怪物的心情を獲得するという最も小説的な部分が設定同様、雑である。人の顔に戻ったら菓子パンとか饂飩とか食べてりゃ苦労はないんじゃないかとも思った。頑張ってください。

「ピーピング・アリス」    松本エムザ

映画『アパートの鍵貸します』的なことをしながらも窃視欲を抑えられない主人公の顛末なのだが、いかんせん性的描写がチープだ。また心霊との三角関係もアイディア的に貧しい。霊の恋人を『レイ』とするのもフィクションでは物悲しい。どうしても性描写を描くのであれば三流ポルノ小説に登場するような描写は一切止めるべきだ。でないと作品の格が墜ちる。山田詠美先生や村上龍先生の精読を願う。頑張ってください。

「しいたけ」   小沢 樹

主人公が務めるバーの常連客に異様なまでに〈しいたけ〉を嫌悪する男がいた。その理由とは……というものだが、実話テイストを巧く持ち込んで処理しようという意気込みは買うが、どうも謎解きをしてしまうとパッとしない。つまり読者の想像を超える〈どんでん〉が発明されていないからだ。頑張ってください。

「あるヤク中の恋」   緒方あきら

タイトルのまま。正にジャンキービッチが騙して騙され殺されるまでを描いた作品。冒頭の描写は読ませるものがあったが、途中から〈ありきたりな物語〉になってしまった。その理由はこうではないか? ひとつは悲劇的な状況が終始うわの空で描かれていること。ふたつめは台詞が悪い。これらを磨かれれば更に光るものを作られるに違いない。頑張ってください。

「GORE」   藤咲段座

幼女死体遺棄事件と〈GORE〉なるドラッグを巡る因果を描いた作品。物語の構成、ネタ、描写には面白いものがありました。ただ説明しようとするあまり話の流れが停滞したり、ギクシャクする箇所が見受けられました。が、それらを補ってなお、工夫の跡が見られたのは好印象でした。がんばってください。

「ともしび」   原 悠

ゴミ溜めのような暮らしをしていた主人公の俺が遭遇した乱暴者のドンシクと優しいリカちゃんの韓国籍の異父兄妹。彼らに求められるままに串焼きの下拵えのバイトに精を出すのだが……という話。一瞬、俺が酔って描いたのか?と錯覚する程だったが、そうではなかったのである。途中までの展開はスムーズだったが後半に息切れなのか時間切れなのかが感じられ、ばたついてしまったのが惜しまれる。がんばってください。

◎総評


どうにもこうにも自分の行いゆえなのか、生き様のせいなのか〈とんでもない屑が更に屑なことをして大変な目に遭う〉というのが平山夢明杯のイメージのようである。確かにそれは否定しないが、駄目な人は駄目であると描いては駄目である。私が常々、あれらの作品を手がける際に心しているのは【人間喜劇】であり、振り切ってはいるけれどやはり人のブルズアイを打ち抜きたいのです。作家修行中の人にはくれぐれも〈自分は人様よりも上だ〉などと思わないで戴きたい。〈自分は人様よりも何かわかっている〉などと決して思わないで戴きたい。なにもわからず、これしかないから作家なのである。そんな自分でも聞いて戴きたいのです。読んで戴きたいのです、という気持ちがその者の核になっていれば、自然とキャラクターたちは必死になって物語を生きようとし、台詞は生き、作品がパワーを持つのです。作家が偉かった時代は終わりました。そんな時代は死んだのです。今は世間の地べたに這いつくばり、共に生きようと創作の汗にまみれる者だけが書いて良しの権利を得るのです。頑張ってください。


p.s.
台詞は自由です。小説の「」のなかは恐れなければ何を書いてもかまいません。それを発する人間が要ると作者が信じるのであればです。但し、他者をその実存を根拠に非難してはいけません。それは差別になります。我々が非難すべきは実存ではなく彼らの本質です。

編集部より




平山さんによる選考の結果を発表します。



入選作   なし


佳作   「GORE」  「ともしび」





佳作入選された藤咲段座さんと原悠さんには、今週中に編集部よりご連絡を差し上げます。お二人には、佳作の副賞をお送りいたします。なお、両作品は近々サイト上にて公開させていただきます。



平山夢明 ひらやま・ゆめあき

1961年神奈川県出身。1996年『SINKER沈むもの』で小説家デビュー。2006年、短編「独白するユニバーサル横メルカトル」で日本推理作家協会賞短編賞、2010年『DINER』で日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞を受賞。著書に『ミサイルマン』『他人事』『暗くて静かでロックな娘』『或るろくでなしの死』『ヤギより上、猿より下』『デブを捨てに』などがある。