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しのぶ彼岸花
上絵師 律の似面絵帖【七】
若おかみとして初めての新年を迎える律は
懐妊の兆しに気づく――
葉茶屋・青陽堂の嫁として初めての新年を迎えた律。若女将の務めと上絵師の仕事――その両立に励む折り、懐妊の兆しに気づく。喜びと不安に揺れる律に、女形の役者から着物の仕事が舞い込んだ。殺された倅の弔いに彼岸花を描いて欲しいというのだが……。義妹・香の出産、新たな似面絵にからむ事件など、悲喜こもごもの日々が描かれる人気シリーズ最新刊。
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1972年生まれ、ミネソタ大学卒業。2012年『鈴の神さま』でデビュー。同年『妖国の剣士』で第4回角川春樹小説賞受賞。本シリーズの作品の他に「深川二幸堂 菓子こよみ」シリーズ、「山手線謎日和」シリーズ、「江戸は浅草」シリーズ、「神田職人えにし譚」シリーズなどがある。
著者の知野みさきさんより ▼
これまでのあらすじ
辻斬りで母を亡くし、上絵師の父も失意のうちに死んだ。律は幼い弟のためにも、父の跡を継ぎ、布に家紋や絵を描く上絵師としての独り立ちを目指していた。
しかし駆け出しの女職人に仕事が来ることもなく焦っていた折、馴染みの同心に請われて描いた似面絵が事件を解決に導くことになり、いつしか律の描く似顔絵は評判に。
律には、表店の葉茶屋・青陽堂の跡取り息子・涼太という幼馴染がいる。涼太も店を背負ってゆくために、必死で仕事を覚えていく日々だ。
ふたりは密かに想いを寄せ合っているが、身分の違いや仕事の未熟さもあって、なかなか気持ちを表に出せず、すれ違うばかり。
上絵師としてもっといい仕事をしたいと精進する律、そんな律を見守りいずれ夫婦にと思っている涼太。そんな二人の周りで起こるさまざまな事件や出来事の解決に、律の似面絵がひと役買うことも増えてきた。なかなか進まなかった縁談もついにまとまり、晴れて青陽堂の嫁となった律。
慣れない若おかみの務めと職人の仕事を両立しようと、ひたむきに生きる彼女の人生から目が離せない――。
登場人物
律(りつ)
亡くなった父・伊三郎の跡を継ぎ、上絵師として身を立てようと頑張っている。たまたま描いた「似面絵」が評判になり、事件解決や人捜しのために頼まれたりするように。幼なじみの涼太のことを好いているのだが、職人として独り立ちしていないこと、表店の跡取りとの身分違い、などから想いは秘めたまま。
涼太(りょうた)
表店の葉茶屋・青陽堂のひとり息子。幼なじみの律とは、いずれ夫婦にと思っているものの、跡取りとして仕事を覚えなくてはいけない身の上で言い出せない。商売人の子らしく人の顔を覚えるのが得意なので、律の似面絵とともに事件解決に力を発揮する。
香(こう)
涼太の妹で律とも仲が良い。銀座町の薬種問屋・伏野屋へ嫁いでいるが、夫婦の間に子供が出来ないのが悩みで、義母に嫌味を言われるのが嫌でしょっちゅう実家や律のところに遊びにやってくる。律と兄の双方の想いを知っていて仲を取り持とうとするが…。
慶太郎(けいたろう)
律とは歳がひと回り離れた弟。両親を亡くしてからは親代わりとして弟のことを面倒見ていた。父の跡を継いで上絵師にさせたいと思っていたが、桐山の御饅頭が大好物の慶太郎は、菓子職人になりたいと思っている。
今井直之(いまいなおゆき)
律の長屋の隣人で手習指南所の師匠。幼いころから律や涼太を見守り、なにかと力を貸している。律が「上絵師」の看板を掲げても仕事がこなくて落ち込んでいた時に、似面絵の副業をそれとなくすすめたのが今井だった。
類(るい)
呉服屋・池見屋の女将。仕事には厳しいが、それだけ一流の目を持つ類は、職人にとっては怖いが認められるのは嬉しい存在でもある。頼まれた巾着絵を工夫して描いて持っていくのだが、滅多に褒められることはない。しかし一途に頑張る律のことを、類は……。
綾乃(あやの)
浅草の料亭・尾上のひとり娘。物取りの現場を目撃し、犯人の似面絵を描く律の元へ。そこで涼太と出会いひと目ぼれし、いずれ青陽堂は尾上と縁を結ぶのだと思っている節がある。物怖じせず、ちゃきちゃきとしたお嬢様だ。
広瀬保次郎(ひろせやすじろう)
定廻りの同心。細見で学問を愛する大人しい男でお茶好き、ゆえに青陽堂の得意客。今井や涼太と仲がよく、事件の捜査のためや、知り合いの人捜しのために律に似面絵を頼みに来る。
佐和(さわ)
青陽堂の四代目女将として店のすべてを仕切っている。涼太を一人前にするために、さらに厳しく仕込もうとしている。涼太と律の想いに気がついているようだが、商売のことを思うと……。ちなみに父親の清次郎は入婿、茶室での接待が主な仕事だが、人柄から奉公人にも得意先にも信頼があつい。
伊三郎と美和(いさぶろうとみわ)
律と慶太郎の両親。母親の美和は辻斬りに遭い斬殺され、父親の伊三郎も右手を斬られた。上絵師として致命傷を負った父の代わりに、律は影となり仕事を手伝っていた。父が亡くなり、律は上絵師として看板を掲げることにしたのだ。このとき律は、父が描いたものと思われる辻斬りの似面絵を見つけ、密かに仇討ちをすることも考えていた。
より律の世界を楽しむために
上絵師って?
染め物の上に絵を描く職人のこと。反物に絵を描いたり、紋を入れたりします。紋を入れるときに外円を描くのに使うのが「ぶん回し」という道具。これはコンパスの様なもので、竹で作られた軸に筆を取りつけて使用しました。
着物のあれこれ
腕をあげて着物にもっと描いていきたい律ですが、着物には袷(あわせ)と単(ひとえ)があります。生地を二枚縫い合わせた裏地のある着物を袷で、裏地がなく一枚だけのものを単衣といいます。袷は10月~翌年5月ごろまで、単は9月と6月の季節の変わり目に着られます。
着物のあれこれ2
着物には格というものがあります。小紋、色無地、附下(つけさげ)、訪問着、色留、振袖、留袖の順に格があがります。律が手掛けた着物は裾と袖に意匠を施した附下です。
作中に出てくる日本の伝統色
物語の中には、着物もしくは染料としていろいろな和色が出てきます。
著者の知野みさきさんより
3巻目以降、年1冊ペースで書いてきたこのシリーズも7巻目となりました。
上絵師、似面絵師として少しずつ成長してきた律ですが、6巻目にしてようやく涼太と夫婦となり、新たな暮らしが始まりました。お馴染みのご近所さんや青陽堂の面々の他、上絵や似面絵を通じて触れ合った様々な年齢・境遇の人々も増えまして、書きながら自身の過去の出会いや別れ、触れ合いを振り返ってきました。
律は今後もたくさんの人に出会います。私がそうであるように、皆さまにも律や周りの人々の「これから」を楽しみにしていただけるよう励んでまいりますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
2021年5月 知野みさき
シリーズ既刊
駆ける百合
上絵師 律の似面絵帖【六】
涼太と祝言を挙げ、青陽堂の嫁としての新たな生活を迎えた律は、息抜きに出かけた先で、同じく嫁いだばかりの女たちと知り合う。悩みを打ち明け合える知己を得て心強く思う律だった。一方、池見屋で、律は義母の佐和もよく知る由里という女性に出会う。彼女は何やら心に憂いを抱えている様子なのだが――。
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つなぐ鞠
上絵師 律の似面絵帖【五】
鞠の意匠をあしらった「鞠巾着」が人気となり、上絵師として安定した仕事をもらえるようになった律。涼太との祝言の日取りも決まり、幸せを噛みしめながらも、改めて上絵師の仕事も一生続けていこうと決意をする。
そんなある日、拐かし一味の女の似面絵を保次郎に頼まれた律は、自ら仕上げた絵を見てなにか引っかかるものを感じるのだが――。
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巡る桜
上絵師 律の似面絵帖【四】
池見屋から巾着絵の仕事を減らされ、律は焦りを覚えていた。そんな折、葉茶屋・青陽堂では、商品に古茶が混じったことで、得意客が離れる騒ぎが起こる。商売敵による差し金ではと若旦那の涼太は悔しさを滲ませるのだが……。職人としての誇りをかけた仕事に打ち込みながら、ゆくえ定まらぬ恋に心揺らす律。 そんな中、人捜しのために似面絵を頼まれて――。
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雪華燃ゆ
上絵師 律の似面絵帖【三】
上絵師として初めて大きな仕事、着物を手掛けることになった律。粋人として名を馳せる雪永が親しい女に贈るものだという。張り切って下描きを仕上げる律だが、何度描いてもいい返事がもらえない。そんな中、女から金をだまし取って逃げたという男の似面絵の依頼を受ける。一方、律の仕事ぶりに自分も焦る涼太。二人の仲が一気に動き出す!
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舞う百日紅
上絵師 律の似面絵帖【二】
幼馴染の涼太への想いは深く胸に秘めたまま、上絵師として身を立てようとするがままならない。しかし副業の似面絵の評判は上々で、お上のみならず注文は舞い込んでくる。そんな折、父親が遺していた母を殺めた辻斬りの似面絵、それにそっくりな男が現れた。律は決死の覚悟で男の正体を暴くために奔走するが…。
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落ちぬ椿
上絵師 律の似面絵帖【一】
辻斬りで母を亡くし、上絵師の父も失意のうちに死んだ。律は幼い弟のためにも父の跡を継ぎ、上絵師としての独り立ちを目指す。そんな折、馴染みの同心の持ち込んだ似面絵に「私が描く方がまし」と口走り……。副業として請けはじめた似面絵が、さまざまな事件の解決や人捜しの一助となっていく。
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