「上絵師 律の似面絵帖」の世界




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巡る桜
上絵師 律の似面絵帖【四】

知野みさき

青陽堂の信用を失う事件が起こり、跡取り息子の涼太は立て直しに奔走する。
一方、律は上絵師の仕事が思ったようにいかず落ち込み気味で、ふたりの恋もままならない。そんな中、人捜しのための似面絵を頼みにやってきたのは――。




知野みさき(ちの・みさき)
1972生まれ。ミネソタ大学卒業。現在はバンクーバー在住、銀行の内部監察員を務める。2012年『鈴の神さま』でデビュー。同年『妖国の剣士』で第四回角川春樹小説賞受賞。『しろとましろ 神田職人町縁はじめ』『深川二幸堂 菓子こよみ』『山手線謎日和』など。著者の想い ▼

これまでのあらすじ


辻斬りで母を亡くし、上絵師の父も失意のうちに死んだ。律は幼い弟のためにも、父の跡を継ぎ、布に家紋や絵を描く上絵師としての独り立ちを目指していた。
しかし駆け出しの女職人に仕事が来ることもなく焦っていた折、馴染みの同心に請われて描いた似面絵が事件を解決に導くことになり、いつしか律の描く似顔絵は評判に。
律には、表店の葉茶屋・青陽堂の跡取り息子・涼太という幼馴染がいる。涼太も店を背負ってゆくために、必死で仕事を覚えていく日々だ。
ふたりは密かに想いを寄せ合っているが、身分の違いや仕事の未熟さもあって、なかなか気持ちを表に出せず、すれ違うばかり。
上絵師としてもっといい仕事をしたいと精進する律、そんな律を見守りいずれ夫婦にと思っている涼太。そんな二人の周りで起こるさまざまな事件や出来事の解決に、律の似面絵がひと役買うことも増えてきた。少しずつだが、二人の距離も近づきつつあるのだが……。
不器用ながらも真っ直ぐひたむきに生きる律の、仕事と恋の行方から目が離せない――。


登場人物


律(りつ)
亡くなった父・伊三郎の跡を継ぎ、上絵師として身を立てようと頑張っている。たまたま描いた「似面絵」が評判になり、事件解決や人捜しのために頼まれたりするように。幼なじみの涼太のことを好いているのだが、職人として独り立ちしていないこと、表店の跡取りとの身分違い、などから想いは秘めたまま。


涼太(りょうた)
表店の葉茶屋・青陽堂のひとり息子。幼なじみの律とは、いずれ夫婦にと思っているものの、跡取りとして仕事を覚えなくてはいけない身の上で言い出せない。商売人の子らしく人の顔を覚えるのが得意なので、律の似面絵とともに事件解決に力を発揮する。


香(こう)
涼太の妹で律とも仲が良い。銀座町の薬種問屋・伏野屋へ嫁いでいるが、夫婦の間に子供が出来ないのが悩みで、義母に嫌味を言われるのが嫌でしょっちゅう実家や律のところに遊びにやってくる。律と兄の双方の想いを知っていて仲を取り持とうとするが…。


慶太郎(けいたろう)
律とは歳がひと回り離れた弟。両親を亡くしてからは親代わりとして弟のことを面倒見ていた。父の跡を継いで上絵師にさせたいと思っていたが、桐山の御饅頭が大好物の慶太郎は、菓子職人になりたいと思っている。



今井直之(いまいなおゆき)
律の長屋の隣人で手習指南所の師匠。幼いころから律や涼太を見守り、なにかと力を貸している。律が「上絵師」の看板を掲げても仕事がこなくて落ち込んでいた時に、似面絵の副業をそれとなくすすめたのが今井だった。



類(るい)
呉服屋・池見屋の女将。仕事には厳しいが、それだけ一流の目を持つ類は、職人にとっては怖いが認められるのは嬉しい存在でもある。頼まれた巾着絵を工夫して描いて持っていくのだが、滅多に褒められることはない。しかし一途に頑張る律のことを、類は……。



綾乃(あやの)
浅草の料亭・尾上のひとり娘。物取りの現場を目撃し、犯人の似面絵を描く律の元へ。そこで涼太と出会いひと目ぼれし、いずれ青陽堂は尾上と縁を結ぶのだと思っている節がある。物怖じせず、ちゃきちゃきとしたお嬢様だ。


広瀬保次郎(ひろせやすじろう)
定廻りの同心。細見で学問を愛する大人しい男でお茶好き、ゆえに青陽堂の得意客。今井や涼太と仲がよく、事件の捜査のためや、知り合いの人捜しのために律に似面絵を頼みに来る。


佐和(さわ)
青陽堂の四代目女将として店のすべてを仕切っている。涼太を一人前にするために、さらに厳しく仕込もうとしている。涼太と律の想いに気がついているようだが、商売のことを思うと……。ちなみに父親の清次郎は入婿、茶室での接待が主な仕事だが、人柄から奉公人にも得意先にも信頼があつい。



伊三郎と美和(いさぶろうとみわ)
律と慶太郎の両親。母親の美和は辻斬りに遭い斬殺され、父親の伊三郎も右手を斬られた。上絵師として致命傷を負った父の代わりに、律は影となり仕事を手伝っていた。父が亡くなり、律は上絵師として看板を掲げることにしたのだ。このとき律は、父が描いたものと思われる辻斬りの似面絵を見つけ、密かに仇討ちをすることも考えていた。



より律の世界を楽しむために


上絵師って?
染め物の上に絵を描く職人のこと。反物に絵を描いたり、紋を入れたりします。紋を入れるときに外円を描くのに使うのが「ぶん回し」という道具。これはコンパスの様なもので、竹で作られた軸に筆を取りつけて使用しました。

着物のあれこれ
腕をあげて着物にもっと描いていきたい律ですが、着物には袷(あわせ)と単(ひとえ)があります。生地を二枚縫い合わせた裏地のある着物を袷で、裏地がなく一枚だけのものを単衣といいます。袷は10月~翌年5月ごろまで、単は9月と6月の季節の変わり目に着られます。


着物のあれこれ2
着物には格というものがあります。小紋、色無地、附下(つけさげ)、訪問着、色留、振袖、留袖の順に格があがります。律が手掛けた着物は裾と袖に意匠を施した附下です。


作中に出てくる日本の伝統色
物語の中には、着物もしくは染料としていろいろな和色が出てきます。




著者の想い


世間知らずで、うぶで、無鉄砲で、自意識過剰。
青いなぁ……と、40代の私は律に時折苦笑しています。が、そんな私が今じたばたしている様を見て、人生の更に先輩たちは「青いなぁ」と苦笑なさっていることでしょう。
ただ、今となっては赤面ものの20代の想い出の中にも、今思い出しても誇らしいことや、目頭が熱くなる、胸が締め付けられる出来事が少なからずありました。私には涼太や香のような幼馴染みはいないし、両親は健在、性格も律と似通ったところはさほどないのですが、似面絵帖を紡ぎながら沸き起こる様々な想いには、人格や時代、そして世代を超えて通じるものがあると感じています。
書き手をもやきもきさせている律ですが、その成長をこれからも一緒に見守っていただければ幸いです。

2018年6月 知野みさき


シリーズ既刊




雪華燃ゆ
上絵師 律の似面絵絵帖【三】


上絵師として初めて大きな仕事、着物を手掛けることになった律。粋人として名を馳せる雪永が親しい女に贈るものだという。張り切って下描きを仕上げる律だが、何度描いてもいい返事がもらえない。そんな中、女から金をだまし取って逃げたという男の似面絵の依頼を受ける。一方、律の仕事ぶりに自分も焦る涼太。二人の仲が一気に動き出す!


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舞う百日紅
上絵師 律の似面絵絵帖【二】


幼馴染の涼太への想いは深く胸に秘めたまま、上絵師として身を立てようとするがままならない。しかし副業の似面絵の評判は上々で、お上のみならず注文は舞い込んでくる。そんな折、父親が遺していた母を殺めた辻斬りの似面絵、それにそっくりな男が現れた。律は決死の覚悟で男の正体を暴くために奔走するが…。


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落ちぬ椿
上絵師 律の似面絵絵帖【一】


辻斬りで母を亡くし、上絵師の父も失意のうちに死んだ。律は幼い弟のためにも父の跡を継ぎ、上絵師としての独り立ちを目指す。そんな折、馴染みの同心の持ち込んだ似面絵に「私が描く方がまし」と口走り……。副業として請けはじめた似面絵が、さまざまな事件の解決や人捜しの一助となっていく。


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