「ピザだって焼けるよ」 坂入慎一 NEW!
「冷蔵人間シンスケ」 伊澤 圭
■優秀作の講評
社川荘太郎 「冷蔵庫から見る世界」
仲が悪い夫婦の家で不穏な日々を送る冷蔵庫。そばには、しょっちゅう奥さんに虐待される電子レンジも。「家電」テーマでこういう切り口の作品は他になく、独創的な構想が見事でした。ただ、冷蔵庫の正体については、ラスト近くで初めて明かす方がショートショートとしての切れ味が増すように思います。構成を再考し書き直してみることをお勧めします。
花園メアリー 「ベストアンサー」
月島で生まれた主人公と逢坂生まれの夫との、もんじゃvs.たこ焼きの戦い。センスのいい導入部ですが、物語はもっと大きく動かしてほしい。にしても「たこ焼き器」も確かに電化製品! ご当地あるあるなモノを持ってきた楽しい作品。
秋谷りんこ 「夜をやりすごすために」
書き慣れた方で、話運びや表現が実に巧み。ただ、冷凍庫にしまってあったモノの表現が、より具体的(食感や味など)な方が現実味を出せるのでは? またラストは読者の予想を超えるような何かが欲しいと思ってしまいました。
秋谷りんこ 「掃除機バトル」
冒頭からいきなり驚きの展開で、物語に引きずりこむ腕力を感じました。途中で戦いになる相手のキャラクターをもっと際立てたいですね。そうすれば、バトルシーンにより迫力が生まれるのでは。またラストももうひとひねり欲しいところ。筆力のある方なので期待したいです。
秋谷りんこ 「自業自得だよ」
コンビニの店員をナンパした主人公。彼女はテレビに映るものをなんでも取り出せる能力を持っていた。ピザでもなんでも思った時に取り出せる。なんて便利な能力!と思っていたら……。愉快な展開で楽しみましたが、彼の浮気の発覚にも、その能力が一役買う展開の方がより面白くなったと思います。
雪月海桜 「異音。」
そんな異常な状況に住んでいる本人が気が付かなさすぎじゃないか?とか、なにより設置する際にもそんな隙があるのか?とか、いろいろと突っ込みどころはあるのですが、最後まで読まされてしまいました。都市伝説系はリアルさがあればあるほど怖さが際立つと思いますので、そこはがんばって欲しいところです。
伊澤 圭 「冷蔵人間シンスケ」
冷蔵庫の奥にもう一つの扉があってそこから生前の祖父が顔を出すという設定は面白く、とぼけた語り口にも味があります。向こう側のお爺ちゃんの状態を、こちら側の家族があれこれ話し合うところもまさにホームドラマの食卓の一シーン。最後も洒落ていてよかったです。
鈴木雄太 「血液家電」
スマホやパソコンが持ち主の血液をエネルギーとして動くという近未来の話――と思いきや、ラストにはとんでもない地球侵略の企みが。構成はいいと思いますがもっと設定と情報を突き詰めて洗練させて欲しいと思いました。
K・G 「アプライアンス・アサシンズ」
殺し屋の世界にもテレビ通販があり、妙な殺し道具が蔓延している。そんな、コマーシャリズムに毒されているシニカルでハードボイルドな世界。キャラもたっているし展開も早くていい。ラストがちょっと物足りないというか、むしろ懐古主義な殺し屋としてクールに決めて欲しかったように感じました。
進見達生 「夢の余韻」
家電というと洗濯機やテレビなど想像しがちですが、「カセットテープレコーダー」というひと時代前の電化製品と、それにちょっと切ない青春の思い出を重ねた作品。世代によっては懐かしいと思われるのでは。
田中へいた 「選択機」
ダジャレからの発想で、オチもダジャレ。文字数も少ないので特別な展開はないのだけれど、きれいにまとめた感があります。
小石創樹 「オール転嫁」
こちらもダジャレをもとにした発想ですが、ストーリーが動き、またパンチもありました。右手と左手の役割分担をもう少し丁寧に書くと、ラストがもっとわかりやすくなるかもしれません。
月山枝葉 「掃除記」
不要なものをどこかに送って消してしまう――この機械の働きについて、荒唐無稽であっても、なんらかの理屈付けを作中で入れておいた方がよいと思います。消した物の行き先について、また消滅をキャンセルする方法など、細部をきちんと描くことで、作品内リアリティが高まると思います。
マー君 「冷蔵庫」
主人公が子どもだった時の父親と自分を重ねる構図になっていますが、それをやるのであれば、回想部分と現在が入れ替わるところなど、構成を練り、より丁寧に記述した方がよいと思います。また、ブラックな真相を暗示していますが、それについては父親の言葉や態度などに、少しでよいので伏線を張っておくべきかと。
見坂卓郎 「弁当、あたたためますか」
一瞬、書き間違いかと思ってしまいました(笑)。発想が実にユニークで、こんな電子レンジならぜひ欲しくなります。ただ、この楽しいアイディアを生かす話として、もっとふさわしい設定があるのではという印象が残りました。この発想を生かして、別の物語にもチャレンジしてみることをお勧めします。
立山るうた 「ブルー・ティース・プロジェクト」
Bluetoothを本当に歯で操作するというアイディアが面白い。その政府が語るプロジェクトの目的にもっと説得力を持たせてほしいところ。そして、「本当の目的」については、きちんと作中で語られる方がよいのでは? ラストも肩透かし感は否めないところ。物語を盛り上げるには、ここは主人公が能力を駆使して、政府と闘う姿を見せた方がよいかもしれません。
かく遥加 「停波」
テレビ最後の日と日本滅亡との因果関係が強引かもしれません。国民がなにも知らずにいるというのもちょっと無理があるかも。ワンアイデアで最後まで突っ走っていますが、筆力はありますので、どこまでリアルさを入れるか、などどんどんひねってみてください。
田島春香 「見守り家電」
持ち主の女性の幸せのためにいろいろと働く家電たちのキャラクターが楽しい。ただ、彼女を騙そうとする男のキャラクター造形が類型的で、かつその手段もありきたりな印象が。それゆえ、解決に至る流れも盛り上がりに欠けるように感じます。
十五条燐 「ドラレミ」
ネットで知り合ったボカロ系アーティストたち、殺人事件、凶器のドライヤー、そして家電を使ったダイニングメッセージと謎解き――盛りだくさんな内容をうまくまとめたと思いました。家電がテーマでこういう作品が出てくるというのが面白いですね。
有島魯鈍 「うばすて」
なんといっても豊かな表現力に驚かされました。筋を追うのも難しい作品ですが、異様な迫力に満ちています。一般的なショートショートとはかけ離れた散文詩とでも呼ぶべき掌編。
村木志乃介 「クリーンな世界を目指して」
険悪な場の雰囲気を一変させる「空気正常機」というアイディアが面白い。ショートショートとしては余分な要素が多いので、全体の構成を再考して書き直せば傑作になるのではないかと思います。
有屋美 徹 「幸せな洗濯」
ある家庭で使われている洗濯機。二人の男女の衣類に赤ちゃん用の衣類が加わり……洗濯機の視点から家族の変化を見守る視線が優しく、心温まる作品でした。
河音直歩 「小さなラジオ」
急な事故で妻(母)を亡くした父娘。そこに亡くなった人の声を聞くことができるという古いラジオを祖母が入手してくるのだが……。家族の切ない絆を丁寧に巧みに描いた秀作。ショートショート作品にするには、やはり何らかのサプライズを盛り込んでいただきたいところです。
結城熊雄 「天気製造機アマテラス」
あらゆる天候を作り出せるドローン。それが家庭内で巻き起こす騒動が楽しい。愉快な物語ですが、使い途が平凡なのが残念でした。語り口が巧みで物語の推進力を生み出す力のある方なので、今後も期待しています。
森岡 伶 「家電の家出」
次々と主人公の家から「家出」する家電たち。その目的は? テンポのいい語り口と、家出の理由を知るスマホと主人公の掛け合いを愉快に読みました。タイトルはそのままなので、再考してほしいですね。「タイトルは作品の一部」ということをお忘れなく。
坂入慎一 「ピザだって焼けるよ」
恋人が事故に遭って、「機械人間である」オーブンレンジになって帰ってきた。ユーモラスな展開に微笑まされながら、「その人らしさ」って何だろうと、ついつい考えさせられてしまいます。タイトルのセンスもさすがですね。
藤崎涼子 「小林先生のヒミツ」
女子大学生が素敵な教授に抱いた恋心。思わぬ偶然から関係が進展して……。するすると読める滑らかな文章と巧みな語り口。ただ、ミステリー的な展開なだけに、どこかに伏線を織り込んでおいていただきたいところです。
世並理穂 「夢の切れ端」
描いた原稿を破ってはまた描きまた破り、ロボット掃除機が吸い込まなかった残りを繋ぎ合わせた作品が大ヒット。創作の苦しみをリアルに描いていて、ラストもセンスがいい。どこか生成AIを連想させますね。
がみの 「スピリットクーラー」
幽霊が醸し出す冷気を利用したエネルギー不要のクーラーという発想が面白い! もっと大きな波乱があるハチャメチャな展開へと発展させた方が、発想のユニークさと釣り合うのではと感じました。
浅川貴弘 「フローズン本棚」
ある日、主人公のアパートに転がり込んできたダニエル(あだ名)。二人の青年の共同生活が、壊れた一台の冷蔵庫を軸に、味わいのある会話をちりばめながら描かれていきます。可笑しくて情けない、でも温かい青春掌編。言葉選びのセンスもよく、ショートショートより連作短編などに挑戦していただきたいタイプの書き手だと感じました。
藤田ナツミ 「太陽に毛布をかけて」
空中に浮遊して、温かみのある光を発する「照明用太陽」。失恋で昼夜逆転の生活を送る主人公に友人が届けてくれ――。素敵な発想にぐっと引き込まれて読みました。読み心地のいい一篇でしたが、ショートショートとしては、もっと物語の進行を早めて、一波乱盛り込んだ方がよかったのではないでしょうか(雨降って時か固まるような)。
以上の中から入選作に選ばれたのは
伊澤 圭 「冷蔵人間シンスケ」
坂入慎一 「ピザだって焼けるよ」
の2作品です。
おめでとうございます!
お二人には、この後、ご連絡を差し上げます。
もしかしたら、少し加筆などをご相談することがあるかもしれませんので、その際には、よろしくお願いいたします。
その他、印象に残った作品です。
高瀬れんげ 「俺達の道楽」/吸い込んだゴミの味について感想をつぶやく掃除機。ブラック企業で働く主人公は会社に持っていき……。後半が尻すぼみになった印象。実家の場面は不要では?
藤原チコ 「空気セイジョウ機」/きまずい空気やとげとげした空気を正常にしてくれる空気清浄機というアイディアがいいので、もっと遊びのある展開にした方がよいのでは
奥山いずみ 「もどす」/新しく購入した多機能のオーブンレンジには「もどす」機能のボタンが。切り干し大根をもどそうとすると……。楽しい着想ですが、「自分の爪で試してみて~」という後半への展開は、説得力が弱かったかもしれません。
望月滋斗 「マウス」/パソコンのマウスが勝手にネット通販で注文してマウスがどんどん増殖していくという着想はユニークですが、主人公にあまりに対抗策がないのが気になります。また、本題に入る前が長いのでは。ずばっとマウスの増殖から入って、その攻防戦に絞って書くことで、より凝縮した面白さが生まれると思います。
望月滋斗 「ロ母」/母のようにかいがいしく面倒をみてくれるロ母。話運びが巧みで読ませますが、そもそも「ロ母」は一般的な家電なのか? 主人公の実母は? など書かれていないことが気になる設定でした
月の砂漠 「ばあちゃんの扇風機」/東京での一人暮らしに旅立つ俺にばあちゃんがくれた古い扇風機。それが不思議な予言めいた現象を引き起こして……。読みやすい文章で先が楽しみになる展開ですが、ラストはもうひとひねりもふたひねりもほしいですね。
藤井 俊 「お風呂の栓はしましたか」/さまざまな家電の改良をしてくれるAIロボット「ソルティ」。そのあまりの有能さに主人公は……。丁寧な物語設定ですが、ラストは予想できてしまいます。