ショートショート「乗り物」テーマの入選作一作を公開します!



「ふねの湯」 雲染ゆう


「リズという名の男の宇宙船」 社川荘太郎


「心海探査艇ふろいと」 海宝晃子


「牛車の中で紫陽花を抱きしめる」 藤田ナツミ



第14回「乗り物」テーマ 優秀作・入選作の講評

仁科佐和子 「百歳の木馬」

家族に代々受け継がれてきた木馬が息子の危機を救う。丁寧に物語が紡がれているが、ラストにはより大きなサプライズをもってきてほしいところです。

社川 荘太郎 「賃貸観覧車」

観覧車で生活することに憧れて一年住み続ける青年。発想はとても楽しいのですが、それだけにトイレのことなど生活感のある部分にはあえて触れず夢のある展開だけで押し通した方がよかったのではないでしょうか。

社川 荘太郎 「リズという名の男の宇宙船」

終末が迫りつつある地球を脱出し異星への移住を進めようとする富裕層と、そのためにある過酷な任務を負わされる主人公。大きな物語の断面を巧みに見せ、スリリングな仕上がりになっています。いくつか不自然な部分が散見されますが、とても意欲的な作品でした。

佐藤鯨 「プレス発表」

人が乗れる雲キントウン(孫悟空が乗るアレです)が実現したという記者発表会。語り口は楽しいのですが、ここから大きな物語を展開してほしいところです。

進見達生 「深海魚の哀しみ」

地味な存在の愛称アンコウくんのキャラクター描写がとてもいいですね。彼に親近感が湧くだけに、この作品は幸せな結末を用意した方がよかったのではないでしょうか。

絵平手茉莉 「夏のダイヤ」

人間たちを背に乗せて湖を渡してあげる水蛇が少女に恋をしてーー。プラネタリウムの中で語られるおとぎ話だけで完結してもよかったのでは? 

望月滋斗 「思い出のいもむしコースター」

閉園する遊園地で、幼い頃に乗ったいもむしコースターが蝶へと変身して……。ストレートで夢のあるファンタジーですが、もう一ひねりほしいところ

清本一麿 「道の先」

道を歩いていくと、まるで絵に描いたようにその先は地平線の上へと延びていた。いつしか地上を離れて高く高く上っていって……。着想がユニークですが、ラストはもう一つアイディアがほしいところ。

海宝晃子 「心海探査艇ふろいと」

潜在意識の底に人格が沈んでしまう「沈睡病」にかかった少女の心を引き上げる任務に挑む主人公。深海と重ねて描かれた人の「心海」の描写が楽しくて美しいですね。ただ、少女の潜在意識の深みへと旅する「探査艇」のシステムを少しでも入れていただきたいところです。

月山 枝葉 「反転怪談」

タクシーに乗ってきた幽霊は、ドライバーを怖がらせることに悦びを見いだしているのだが……。結末のどんでん返しに至る伏線を入れてほしかったです。

村木 志乃介 「金になる仕事」

金色の長い長いリムジンに、次々と金に困った様子の男たちが乗り込んできて……。巧みな引っかけにニヤリとさせられましたが、この結末のようなことがなぜ可能なのかについて、なんらかの説明が必要なのではないでしょうか。

はしぐちむべこ 「地上二十八階」

高層ビルのエレベーターのボタンを片っ端から押す少年。各駅停車状態になったエレベーターの中で主人公が出会う怪異とは? 着想は面白いのですが、これから面白くなるところで終わってしまった印象です。

徳田岳彦 「謎めく乗り物」

ある乗り物にのって伝説の宝石を盗みに行くと予告してきた怪盗。端々にユーモアが利いていて楽しく読みました。その乗り物の正体についての伏線がきちんと張られていれば、よかったですね。

あんどー春 「送迎」

高時給がもらえる「送迎」の仕事について電話で問い合わせをする老人。どうやらとても普通の仕事ではないことがわかってきて……老人と発注側との噛み合わないやりとりが楽しいですが、展開にもう一つパンチがほしいと思います。

梨子田 歩未 「乗り物道具店」

古道具店を訪れた客の前に次から次へと登場する不思議な乗り物たち。最後に気に入って購入したものは? そして……。描写も丁寧で的確、オチもわかりやすい。ただ、こぢんまりと小さくまとまり過ぎている印象がありました。

石倉 康司 「ともだち」

祖母の家の近くで知り合った少年。大きくこいだブランコから軽々と飛ぶ姿は天使のようで……。丁寧な描写で温かい読み心地の作品ですが、ショートショートとしては展開を飛躍させてもっとストーリーを動かしてほしいところです。

ミナミ ショウタ 「いのち拾い」

バイク事故で死にかけている男女。なんとか生き延びようとするのだが……。読みやすくてユーモアの利いた作品でした。ラストもいい。ただ、「乗り物」というテーマに合ってはいないかもしれませんね(バイクで事故を起こしたということしか関わりがないので)。

滝沢朱音 「Spring Day」

紙の本が禁じられた世界で、本の溶解作業に携わっている司書たち。紙の本が禁じられたその理由が弱い印象があります。ここに説得力を感じられないと物語世界に入っていきにくい。物語は丁寧に温かく綴られているので、もったいないと思いました。

柏木三夜 「夜に溶けて、ふたり」

毎回違う女性の体に「乗って」戻ってくる亡き妻。死に別れた夫婦が密かに再会を続ける話ですが、設定を語るだけで終わってしまっています。ここから物語が始まってほしいと思いました。

牧野冴 「乗りますか、乗りませんか?」

自動車事故で弟を失った主人公がかなえようとするある願い。結末のツイストが利いていてとてもいいのですが、話運びにぎごちないところが多く見られました。アイディアはよいので、それを生かしつつ、細部まで気を配って書き直してみてはいかがでしょうか。

藤田ナツミ 「牛車の中で紫陽花を抱きしめる」

作中で語られる昔話が、とても味わい深いです。不可思議な出来事をリアルに描写する筆力はさすがですね。ただ、ショートショートというよりは、短編の導入部という印象を受けてしまうのは、最後の一文で登場する人物のせいかもしれませんね。

雲染 ゆう 「ふねの湯」

銭湯の湯船が文字通り「乗り物」となった時――発想が壮大で面白いですね。知ったかぶりをしてしまった主人公が翻弄される様も生き生きと描かれていて思わずほくそ笑んでしまいました。オチには一工夫ほしいと思います。

坂入慎一 「アイスのことだけを考えている」

新幹線の車内販売のアイスは美味しいんですよね。にしても前提含めて不可思議な話、でも読ませてしまうところがさすが常連入選者といったところでしょうか。乗り物といえば「新幹線」、新幹線といえば「アイス」--。

融木 昌 「同僚の頼みごと」

路線バスと軽乗用車の衝突事故、知り合いが絡んでいるらしい――その真相とは。飲み屋で話のネタとして検証をする二人の会話もスムーズで、これだけ短い枚数のなかでうまくまとめてると思いました。ここから先が物語の始まりになりそうですが。

紗々木順子 「冬のカーニバル」

年老いた犬と多分虐待を受けているだろう少年。哀切な事情が垣間見えるものの、それも含んで素敵なファンタジーに仕上げている作品だと思います。圧倒的弱者が救われるのは、著者の方が描きたいテーマの一つとしてあるのだろうと思いました。

加藤雄三 「親切なタクシー」

乗り物はタクシーで運転するのが死神、という設定が何話かあり、この話もそうなのかなと思ったのですが読後感は違いました。人間ドラマですね。タクシーという乗り物に持つ哀愁というイメージ、それがうまく描かれていると思います。「死神」も活きています。

水多千尋 「バス・ストップ」

都会で頑張りすぎている20代後半の女性、彼女の日常が切り取られ季節が移ろう様子がとても美しく描かれます。そしていつも乗る通勤バスでの少女との出会い――。場面が目に浮かびラストに心打たれます。

重留 悦士 「デリバリー」

フードデリバリーで頼んだ「チャレンジピザ」。食べて見ると底に【はずれ】とある。なにが【あたり】なのかが知りたくて頼み続けるのだけれど、いつも【はずれ】ばかり――。こういう心理あるある、と面白く読んでしまいました。ラスト、なんか幸せな気分になるところがいいですねww

さて、この中から入選作は、以下の4作品に決定しました!


社川 荘太郎 「リズという名の男の宇宙船」
海宝晃子   「心海探査艇ふろいと」
藤田ナツミ  「牛車の中で紫陽花を抱きしめる」
雲染 ゆう  「ふねの湯」

おめでとうございます! ただし、どの作品にも加筆をお願いしたいところがありますので、その点はご了解ください。この後、皆さんには直接ご連絡させていただきます。




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