ショートショート「ともだち」テーマの入選作を公開します!



「リカちゃんの娘」山田ヒラリ


「果実」紗々木順子


「ハムカツとポテトコロッケ」ふさふさしっぽ


「指の友達」坂入慎一



第18回「ともだち」テーマ 優秀作の講評

青山 梓  「わが友、瀬川蓮」

前半のシチュエーションも風変わりで引き込まれ、後半の切り替えが面白かったです。ただ、真相がわかってからが長すぎるのでは。ショートショートならば、後半をぎゅっと圧縮してサプライズ後はさっと終わらせたいところです。また最後に出てくる「ともだち割」がよくわからない印象でした。

坂入慎一  「指の友達」

指にできた傷がまるで口のようだったので、いじめられっ子で友達もいなくなった少年はその指に目を描き入れて友達にすることに。想像上の友達?と思えば、そういうわけではなく、驚きの展開が続きます。坂入さんにしてはやや地味なお話ですが、巧いですね。

望月滋斗  「おそろい」

修学旅行先でおそろいのストラップを買った二人の女子中学生に訪れる、その後のおそろいの運命――。常連入選組の望月さんですが、さらに表現力が上がりましたね。ただ、同じ男性を好きになった後の展開は、ややおとなしくなってしまった印象がありました。

紗々木順子  「果実」

友人を作ることができないままできた王様と大臣。友人のいる者を見てはうらやましがる王様のために市で「友人の種」を買った大臣。土に植えるとやがて育って人型の友達が生まれて……。やや冗長なところがあり刈り込んでいだきたいですが、絵本にしたいような寓話的な魅力がある作品でした。

秋田柴子  「桃の花咲くころに」

いじめられて学校に通えなくなった少年は毎日山へと通っては独り泣いていた。そんなある日に出会ったしゃべる狐と友達になって――。とても達者な書き手で端正な文章で読ませますが、ショートショートよりももう少し細部を描き込んで短篇に仕上げてはいかがでしょうか。

浅木まだら  「アイスピック男」

古い友人が容疑者となった傷害事件の弁護を務めることになった主人公。こちらも表現力豊かな達者な文章でなかなか読ませます。ラストの締め方も巧いです。ただ、ショートショートというより、短編小説のプロットを読んでいる印象がありました。事件の詳細や容疑者の供述などの肉付けをして、短篇にするのがよいと思います。

ふさふさしっぽ  「ハムカツとポテトコロッケ」

スーパーで売れ残っているハムカツとコロッケのひそかな会話。ぶっ飛んだ設定に笑い、その後ほっこりさせられます。一行アキが多すぎてかえって読みづらくなっています。場面転換など意味のあるところ以外は詰めて書いていただきたいと思います。

ミナミショウタ  「十四社目」

就職の面接で、学生時代に得た大切ものとして素晴らしい親友のことを話し始める学生。彼の秘められた計画とは? 愉快な語り口で楽しく読みましたが、ラストは予想の範囲のままで終わっているので、もう一ひねりほしいところです。

がみの  「ゾンビ・メロス」

「走れメロス」にゾンビを組み合わせるというびっくりのアイディアがとても楽しい! ただ、オリジナル作品をあまり詳しく覚えていない読者には不親切なところが散見されました。登場人物が何者なのか、名前だけではわからない人も多いでしょう。また、ショートショートとしては、ゾンビ出現は帰路にのみ絞るなどして最後のクライマックスをより際立たせる工夫をしてほしいところです。

山田ヒラリ  「リカちゃんの娘」

小学三年生なのになんでもできてクラスの人気者のリカちゃん。同級生の主人公は、彼女に憧れつつも信用ならない気持ちも抱いていて……。人物造形が実にリアルでとても巧い方ですね。ぎゅっと凝縮されたイヤミスのような強い印象を残す作品でした。

若林明良  「年賀状」

ある年から届き始めた差出人の名前に記憶のない年賀状。文面ではわりと親しい友人だったようなのだが。返事を出さなくても毎年届き続けて……。設定がミステリアスで巧みな話運びでした。ラストでは読み手をもっと怖がらせてほしいと思いました。

こみやかずお  「類は友を」

中華料理店にやってきた一人の客。彼が来ると、そのあとには急に忙しくなる「福の神」のような客だった。このところ客数の少なさに悩まされていた店主は大いに期待するのだが……。「ともだち」テーマをこう料理するのかと楽しく読みましたが、オチがもう一ひねりほしいと思いました。

見坂卓郎  「ベストフレンド」

友情を受けると借金ならぬ「借友」を作ってしまうという発想が面白い。少年時代に借りを作っていた友人を探し当てた主人公は――。話運びも巧みで面白いのですが、このままではラストがあまりに予想通りの印象ではないでしょうか。

藤田ナツミ  「ミモザコーヒー友人付き五百円」

久しぶりに会う友人と一緒に行く約束をしていた古民家カフェ。友人が遅れるとのことでひと足先に入った主人公に訪れた不思議で温かい時間とは? 雰囲気のある文体で幻想味のある物語を綺麗にまとめていますね。

羽藤想記  「鳩山君の小枝」

内容を伝えるのが困難な実にユニークな一編。今回いちばんの怪作ともいえるかもしれません。読み手によって好みは分かれるかもしれませんが(実際この作品に関しては選者間でも評価が割れた面も)、よくぞまとめたなと感心しました。ラストも洒落ているし、楽しく軽やかに読めました。得がたい才能で大きなポテンシャルを感じました。

烏川 ハル  「坂田くんと長山くん」

Vチューブのアイドルや、画像修正などでなりすませるネットの世界。女の子と付き合いたい男子二人の欲望と焦りが愉快に描かれます。ただ展開が予想できるので、そこを裏切ってくるアイデアがあるといいですね。

里田 遊利  「退屈な一日はいい一日」

人の住めなくなった地球から異星探査のために数多くの宇宙船が飛び立った未来で、船からの連絡を独り待ち続ける存在――面白く読めますが、やや構成的に未消化な印象があります。友達というテーマとともにラストの納得感を得るためにそのあたりもう少し手が入るといいような気がします。

社川 荘太郎  「ともだち条例」

町と市の争いがエスカレートしていく様が描かれますが、これは町と町でもよかったような? そのほうがもっと小さな世界で起きた争いが拡大していくナンセンスなニュアンスがより出るような気がしました。ナンセンスさを加速していく後半はもう少し練ったほうがよいと思います。

ゆうぞう  「骨になっても」

短い中でうまく展開していると思います。オチも効いています。一番弟子の登場が唐突に見えるので、故人が死後に手紙が届くように手配していたとする方がリアルですっきりしてよいかもしれません。

安藤和秋  「親友の記憶」

冒頭からの主人公の語りが後に「そういうことか」とわかるなど、とても巧いと思うのですが、綺麗にまとめすぎた気もします。親友とのエピソードも、もう少し未来を暗示する深さや怖さを盛り込むなど、展開にひねりがあると読み応えにつながるのでは。

藤崎涼子  「赤いジャンパースカート」

ダイレクトなホラーものとして、よくできていたと思います。慣れた語り口で読みやすい文章です。ただ、展開が予想通りになってしまったので、もうひとアイデア入れるぐらいのチャレンジを期待したいです。

ことのは もも。  「時の行方」

アイデアは面白いと思います。現在において理想の状況になった自分に、あの夏の日の決断がどう作用したのか、ラストに至るところで、もう少し丁寧に描かれているといいと思います。

紗々木順子  「待合室」

少しずつ主人公が置かれている状況が明かされてゆく話の流れは面白いです。でも、最後の一行にはあっけなさすぎる印象があり、明かされる逆転の真相にもやや唐突感がありました。自分のせいで死なせてしまった(?)友人が現れて、生死を争っている主人公を救いにくる「いい話」に着地させてもよかったかもしれませんね。

齊藤 想  「友達のたね」

主人公が種を買う店にもっと不思議な雰囲気が欲しいです。店主はどういう人で、主人公とどんな会話を交わしたのかなど、導入部で具体的な描写あった方が読み手を引き込むと思います。そのあたりを詰めていくと、主人公の心情ももっとくっきりと出てくると思います。

進見達生  「残り香の記憶」

出て行く妻を引き止めたい主人公が、過去の友人との別れの時の気持ちとリンクして、一冊の本を切っ掛けに後悔をしないための決心をする――全体に静謐なムードが漂い、道具立ても面白い。タイトルもいいですね。ただ少し古い本の出現が強引な印象があります。

杉野圭志  「型ぬき」

縁日などで出る懐かしい遊び――型ぬきを使って、どういう話の展開になるのかなと読み進めていると、あっという間にシュールな着地へ。いろいろとアイディアをよく練ってチャレンジされていることがわかります。次作に期待します。

山森 緑  「レッド・ライト・トーキング」

語り口がスピーディでリズムよく、気持ちいい。なんともさわやかな読後感が味わえる不思議な世界観があり、楽しく読みました。今後も新作を楽しみにしています。

秋谷りんこ  「永遠の友達」

事故に遭う友人の命を救うために何度も時間を遡るタイムループもの。細かなところでもっと丁寧に描いて欲しいところはありますが、うまくまとめていると思います。読み終えるとタイトルの意味に「なるほど、そうだ」と思える面白さもありました。

以下、優秀作には選ばれませんでしたが、印象に残った作品です。

砂原 翠 「悪友」/痴漢被害にあった女子高生と彼女を見守り助ける同級生男子。思春期のひりひりした感受性が生々しく伝わってくる作品でした。
田口純平 「同窓界」/友人たちとの飲み会の描写が生き生きと楽しく、タイトルの意味が最後になってわかり、なるほどと思いました。ただシステムそのものは新しいものではなく、斬新なアイディアがほしいですね。
セバスティアヌス 「C/P」/飲むと相手の言葉が深い実感を伴って理解することができる薬。ラストはもうひとひねりがほしいです。
望月滋斗 「心電気」/静電気ならぬ心電気がプラス同士、マイナス同士は反発しあう。発想は面白いですが、設定により説得力を持たせてほしいですね。
桐夜 「友だち100人」/友達を100人登録しなければならない法律ができた社会。その成り立ちをもう少しリアリティをもって描く必要があるのでは?
戸原一飛 「破壊」/願えば友人の幸せをかなえてくれるというお守りを恵まれている友人にもらったがそのまま捨ててしまった主人公。この作品にはハッピーエンドがふさわしいのではないでしょうか。
黒田拓海 「親友の置き土産」/事故で亡くなった親友の十三回忌で彼の母親から渡された日記。それには、親友が亡くなった後の出来事が書かれていた……。アイディアはとても魅力的でしたが、それを生かしきれていない印象でした。
清本一麿 「僕とかずよしとノアの箱舟」/いじめられっ子同士の二人。友達のかずよしは「世界征服」を望んでいた。理科の天才だった彼が発明したものとは? テンポのいい話運びで読ませますが、発明品によりユニークさがほしいように感じました。
染谷亮詞 「始まりのとき」/引っ越して町を離れることになった少女。不登校で小学校にも通えなくなっていた同級生との交流が温かく描かれ、心に残る作品でした。作中に登場する絵本を読んでみたくなります。
中丸美り 「カフェ旅路」/定年退職して、昔の友人が開いた喫茶店にやってきた男。無沙汰を詫びながらコーヒーを飲むうち、自分の人生の心残りを語り始めるのだが……。落ち着いた語り口で読ませますが、店の設定をもう少し丁寧に作りこんだ方がよかったのではないでしょうか。
海宝晃子 「私たちの「IF」」/子どもの想像上の友人「イマジナリー・フレンド」を実体化させる研究。これはショートショートの長さにまとめるには内容的に大きすぎるように感じます。40枚以上の短編にふさわしいのではないでしょうか。
春原あきる 「釣り合わない友だち」/大学でできた金持ちの友達。彼女はいろんなものをプレゼントしてくれる。理想の彼氏も……。細やかな感情描写で丁寧に描かれていますが、ショートショートではないですね。でも書ける方だと感じました。
世並理穂 「TOMODACHI-03」/アンドロイドの友人を購入に来た男性。さまざまな設定の選択や手続きの煩雑さに辟易して……。多かったアンドロイドものの中では視点がユニークでしたが、物語としては、やや小さくまとまりすぎている印象がありました。
布原夏芽 「夕方の幼馴染」/同級生の陰口にショックを受けて不登校になっている小学生少女。彼女の家に毎日のようにやってきてくれる、たった一人の「友達」のためにも、ある日、勇気を出して登校するとーー。少女の揺れる内面を濃やかに描いています。書ける方だと思いますが、これはショートショート向きの題材ではないかもしれませんね。
西田美波 「静寂を破る」/幼い頃いじめにあって居場所がなかった時に知り合った友達の話を彼女に語り始める男。しっかりした文章で情景がはっきりと浮かんできます。かなり書き慣れた方なのだと思います。ただ、展開としてはサプライズはなくもうひとひねりほしいところです。
浅木まだら 「まみは気持ちがわからない」/亡くなったおじいさんに「人のきもちがわかるようになれ」と言われてきた少女。周囲から浮きがちな彼女が友達を作ろうとする様子がきめ細やかに描かれていて、文体にも配慮が行き届いていました。ショートショートとしては、やはりもう少しパンチがほしいですね。



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