ショートショート「ゲーム」テーマの入選作を公開します!



「駒音ふりつむ」 糸川乃衣


「銀の玉地獄変」花園メアリー


「裏ワザ」望月滋斗




第19回「ゲーム」テーマ 優秀作の講評

坂入慎一  「理想の我が子」

子供を期待通りに育てるために開発された、遺伝子を編集してリアルに子育てができるシミュレーション。実際の子供でないのに出来に右往左往する顧客の様子をシニカルに描いて面白い。さすがうまくまとめていますがちょっと既視感があり、顧客の妻の存在がやや消化不足気味の印象がありました。

秋谷りんこ  「宝探し」

「〇〇を見よ」という指令が書かれた紙に従って探し物をするゲーム。そこには思いもかけないことが書かれていて……。発想は面白いですが、リアルな日常に軸足を置いたストーリーなので、シュールな部分とのバランスについて、もう少し考えていただきたかったです。

藤崎涼子  「田んぼの神様」

妻を亡くした老人。孫娘が田んぼの神様にお願いして彼が元気になるようにと祈ると……。温かく映像的でいい話です。ラストは予想の範囲で、もうひとひねりしてなんらかのパンチが加わると、ショートショートしてグッと良くなるかと。

進見達生  「隠れ鬼」

黄昏の児童公園で出会った二人の老人。昔話はやがて七十年前に起きた悲劇のエピソードへとつながっていきます。そして明かされる思いがけない真実。しゃれた味のある作品ですね。最後も綺麗にまとまっていますが、やや評価が割れました。

社川荘太郎  「宇宙人襲来」

ある日突然やって来た宇宙船「ゲームの舞台に地球が選ばれた」という。やがて往年のアーケードゲームの様相を帯びてきて…。思わずほくそ笑むのはそれなりの年代の人間かも。きっちりと丁寧に書かれているところは好感が持てますが、意外性がほしいところ。

花園メアリー  「銀の玉地獄変」

父親を反面教師に、パチンコ狂いの人間の魂は永遠にパチンコ玉の中に閉じ込められてしまうと母親に言い聞かせられて育った男。そのトラウマの果てに彼に訪れる運命とは――。とても強烈である種の毒をはらんだ作品でした。選考の過程でも議論の的となった作品です。

山重真一  「仮想家族」

仮想現実の中での人生――家族それぞれの栄光と没落が畳みかけるように描かれています。設定はうまいと思います。デティールや、ラストに向かうところでもう少し話運びを丁寧に進めていけるとよりよかったと思います。

望月滋斗  「死神のUFOキャッチャー」

死期が近い患者たちの入院病棟。UFOキャッチャーで空に吊り上げられる夢を見ると死んでしまうという設定が絶妙なおかしみがあって楽しい。ですが、末期のガン患者であるはずの主人公の行動や心理に無理なところが散見され、やや物語に入りにくい印象がありました。

望月滋斗  「裏ワザ」

日々の生活にゲームのように裏ワザが使えたら――。少年はある一連の動作をすることで、好物のおかずやお小遣いを増やすといった奇跡を起こす方法を知る。ところが、あまりやりすぎると思いがけないバグが起こって……。最後まで楽しく読みました。

桜井かな  「お蚕様の夜」

十年に一度のお祭りの日、蚕の神のもとへと行かされるたくさんの子供たち。そこには恐るべき秘密があって……。桜井さんはもう一作「ゲームは一日三時間」でも、巧みな文章で濃密な世界を構築していて表現力は抜群です。ただ、もう少し読み手に親切な話運びを心がけてほしいところです。

戸原一飛  「ふたつの箱」

死を間近に控えた老人に残された「天使の箱」と「悪魔の箱」。開けた者に幸運をもたらす箱と不幸のどん底に突き落とす箱。ただ、どちらが天使でどちらが悪魔かわからなくなっていて……。楽しく読みましたが、ラストはもう一考してほしいですね。

鈴木宗一郎  「ゾンビのお仕事」

ゾンビとしてプレイヤーを襲うのが仕事の主人公。会社に所属しているという設定がユニークだが、話をもっと動かしてほしいし、この設定ならば、思い切りコメディの方向に振る方がパンチのある物語になったのではないでしょうか。

岸辺澪  「キリバ」

多歯症の人々ばかりが住む島が舞台。独特の世界観で不思議な魅力がある話ですが、カードゲームの説明に字数がかなり必要なため、ショートショートの素材としては不利だったかもしれません。

耕 つかさ  「戦国ランナウェイ」

「時空警備員」の仕事を獲得するため、未来からのタイムトラベラー二人が戦国時代を舞台に繰り競うゲーム。伝説の忍者たちを巻き込んでのやり取りがとても楽しい作品でした。

巣々木尋亀  「オセロ」

白と黒の二つの勢力が争いを続け、すべてのものが二色に塗り分けられた世界。戦況が変わるたびに様々なものの色が変わっていくところが面白い。展開にもっと驚きがほしいところです。また、タイトルがネタバレになるなので一考が必要ですね。

見坂卓郎  「ハーフタイム」

私の成人式まで生きるため末期がんの父がしたこととは? 美しい映像が浮かんでくる温かな余韻を残す作品。「審判」の存在が曖昧なので、そこにより説得力を持たせてほしいと思いました。

まだそこにいる恐竜  「完全試合殺人事件」

巨人の投手・槇原が完全試合を達成した試合を居酒屋のテレビで見ている主人公。同じように見ている二人の客のエキサイトぶりがリアルで面白く読みました。展開がややまだるっこしい印象があり、途中を整理してクライマックスを際立たせた方がよいかもしれませんね。

日出彦  「フォアボールマン」

これも野球題材ですが、驚異的なフォアボール獲得率を誇る元日本人メジャーリーガーの物語。彼がフォアボールを取れる秘密とは? 語り口が楽しくてするする読めましたが、最後に明かされる秘密の部分に納得感が弱いのが残念です。

糸川乃衣  「駒音ふりつむ」

長年連れ添った夫を亡くした老婦人。夫の趣味だった将棋盤は部屋の片隅に置いたままだ。そこに一人の「みまもり」の若者がやってきて……。彼女の心の息遣いが聞こえてきそうなほど、丁寧に紡がれた温かい物語。一方でショートショートしては、やや長い印象は残りました。

秋田柴子  「ミッション・テンパッシブル」

子育てという終わりのないミッションをゲームに見立ててのりきっていくスピーディーな描写と、非協力的な夫とよけいな口出しをする義母にぶつける主人公の内心の声が痛快。子育てが終わってからの後半が失速したのが残念です。ラストはあまり詳しく書かず、ぐっとコンパクトに締めると効果が出ると思います。

清本一麿  「闇鍋」

父親と五人の子供たちで闇鍋をした後、父親だけが毒死した。毒の仕掛けられたジャガイモを食べたのだ。犯人は五人の子供たちの中にいると判断されたが、闇鍋だけに、どうやって毒を父親だけに食べさせたのか? トリックは面白いですが、もう少し驚きがほしいと思いました。

以下、今回もまだまだ印象に残る作品が数多くありました。

シバケンタップ  「きのこを選べ」/山の神から授けられた命を懸けたゲーム。食用きのこと毒きのこの食べ方についての謎かけが楽しい。思わず考えてしまいました。オチに強さがほしいところ。

見坂卓郎  「セカンド・サイト」/睡眠をチップに換えて賭けるカジノという発想は面白いが、そのシステムが説明不足では。またクライマックスの描写があっさりしていてもったいない印象でした。

羽藤想記  「粒と粒」/怪作。次々と登場する不思議な動物たちがなんとも魅力的。絵本にしたいシュールなお話でした。

戸原一飛  「雨の日の楽しみ」/赤い傘を差しもう一本手に傘を持つ主人公。なにか秘密があるようで。謎めいた展開が楽しい。ひそかに行われていたゲームのルールがわかりにくい印象がありました。

新岡優哉  「出所したのち」/刑務所を出た男の先々の人生をシミュレートする何者かたち。彼が再び罪を犯さないルートを探るのだが……。人生が何者かに操られているという設定はよく見ますが、語り口が巧みでした。

紗々木順子  「ブラックコイン」/VRのゲームを楽しめるコイン。導入部やゲーム中の描写は楽しいが、コインの色がなぜどのように変わるのか? ほか細部をもっと丁寧に描いてほしいところです。

大川美咲  「花いちもんめ」/山の中で出会った三人の少女との「花いちもんめ」。柔らかな筆致で描かれた温かい物語。風景描写が生き生きしていていいですね。

榎木おじぞう  「すごろく鉄道」/目的の駅に行くためにサイコロを振って何駅進めるかを決めるという発想は面白い。ちょうどその駅で降りられる目が出るとは限らない――。この発想をもっとも生かす展開はなにか? そこをもっと考えていただきたかったです。

高野ユタ  「イージーゲーム」/ゲームの中であるアイテムを10個集めると現実世界でも望みがかなうという。凄腕の主人公は裏技を使って不可能を可能にするのだが。主人公の心情にリアリティがあって楽しく読みました。オチにもっとパンチのある内容をもってきたいところでしょうか。

スイ  「必勝法」/いじめられている主人公に亡き母が投げかける言葉が素晴らしいですね。ショートショートとしては展開が弱いのですが、数々のセリフが素敵でした。

久田高一  「最後の希望」/ピコ星人が人類に渡したゲームの特別な面白さが伝わってこない。なにが地球人を夢中にさせたのかをきちんと描いてほしかったですね。

進見達生  「霧ヶ咲霊園の秋」/霊が見える主人公とレンさんという友人。この物語の構造だと、霊が見える人物が二人必要でしょうか? レンさんという美女のキャラクター紹介に字数がかなり割かれていますが、ショートショートとしてはバランスが悪いかと。展開やラストのサプライズをより効果的に見せるために字数を使ってほしいところです。



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