ショートショート募集第9回「遺言」テーマの入選作



「情報汚染」  里田遊利


「海を漂うユィゴンよ」  藤田ナツミ


「会いたい」  坂入慎一


「真珠の遺言」  小狐裕介


「いってきます」  夏川日和



第9回「遺言」テーマ優秀作講評

「お蚕さん」 吉田 紘

死を間近に控えた祖母が、昔、蚕を飼っていた部屋「お蚕さんとこ」で最期の時を過ごす。そこで孫である主人公が出会う不思議な現象とは? とても文章のうまい方ですね。情景描写も的確で情感の表現も見事です。ただ、最後の出来事には、やはり唐突な印象を受けます。ラストに向けてなんらかの伏線を張るべきではないでしょうか。

「失敗」 ツチフル

何をやっても失敗し続ける人生を送る男。そこに、飲めばすぐに死ねる薬のカプセルを持った少年が現れて――。切り詰めに切り詰めた短文でたたみかける独特の語り口が個性的で魅力があります。ただ、展開としてはやはりシンプル過ぎるでしょうか。

「真珠の遺言」 小狐裕介

夫が荼毘に付された後に、火葬場の職員から渡された真珠。それはごく稀にご遺体から見つかる、故人の思いが込められた「遺言真珠」だという。その内容を知るには、それを飲み込む必要があるのだが……。常連の小狐さんらしい詩的な発想が素敵ですね。さて、それを残された妻はどうするのか? いい意味で読み手の予想を裏切る展開でした。

「ふたりの浜辺」 小狐裕介

こちらも、夫に先立たれた妻が主人公。亡き夫との思い出の浜辺にやって来た彼女は、波打ち際に書かれた「マコちゃん」という文字を見つけます。それは、夫が自分のことを呼ぶときの愛称でした。静かでリリカルな語り口がいいですね。砂浜に残された亡き人からのメッセージというアイディアは、あのブラッドベリの名作をはじめとして、やや既視感はありますが。

「いってきます」 夏川日和

男が一度は飛び出した実家に帰ってきたのは、「たまには帰ってきなさいよ」と妹に大泣きされたからだった。だが、やはり、そこには自分の居場所はないと感じていたのだが……。ぶっきらぼうだが妹を想う兄と、ダメな(?)兄にツッコミを入れる妹の掛け合いが実に楽しいですね。アイディアはよくあるものですが、叙述の巧みさに感心させられました。

「会いたい」 坂入慎一

亡くなった後に希望の生物に転生することができる世界。主人公は、「生まれ変わったらミドリガメになりたい」との希望通りに転生した妻(?)を探し始めます。この突飛な設定に説得力を持たせる筆力はさすがですね。ミドリガメを捕まえては前世チェッカー(!)で前世を調べることを繰り返しているうち、意外な存在に出会う主人公。不思議な味わいと余韻の残る作品でした。

「さながら人生のように」 坂入慎一

こちらも前世もの。主人公は、夕飯のおかずである生姜焼きを食べようとしてふと気づく。この生姜焼きの前世は夫だと。そして、次々に口にしようとするものたちの前世が、すべて親しかった人たちだと。こんな奇天烈な設定をすんなりと読ませてしまうのは、この作者の持ち味でしょう。最後に主人公がとる行動も、納得です。

「AIは遺言を管理できるか」 青山 梓

容姿のいい人間は生涯年収も高くなるというデータに基づいて制定された「美貌税」というアイディアが面白いですね。その他、「きらきらネーム税」や「いいね税」などの発想も秀逸です。それらだけで、一作ずつショートショートが作れそうです。ただ、せっかくのアイディアが、物語の中で十分に生かされていない印象があります。「税金」というテーマで、ぜひ新作を書いていただきたいです。

「情報汚染」 里田遊利

情報や文章、文字が消えてしまい、それらが灰色の謎の物体として降り積もる不思議な世界が面白く、またこれだけの分量の中にドラマティックな要素をうまく詰め込んでいると思います。言葉の残骸(?)は人体をも侵し、浸食されると人でないものになってしまうという設定の中、妻の最後の言葉を探す男性の末路は幸せなのか、悲惨なのか、ラストにもっと余韻を持たせられるといいのじゃないかと。そのために、浸食された人間がどうなるかというのをもう少し詳しく、先に提示してしまうのも手だと思います。

「一生のお願い」 久保 誠

一生に一度だけ心からの願いは叶えられるが、そのための代償は――。ワンアイデアですがブラックに笑える勢いのある作品です。「遺言」をテーマにこういう短くて切れのある作品は面白いですね。次も頑張ってください。

「海を漂うユィゴンよ」 藤田ナツミ

「ユィゴン」という海に生息する未知の生き物がいるという海辺の村。オカルティックな噂の記事を書こうと訪れた女性ライターが村の人に話を聞くと――。「ジュゴン」をパロッたコメディを予想したらこれが思いがけない叙情的な話でした。主人公の女性が村の男性と話をしている最中にふと感じていく自身の内の違和感、これが上手く表現されています。ラストの「私」と「ワタシ」の使い分けによって主人公の立場を変えるのですが、ここがわかりづらく、もう少し手を入れた方がいいかもしれません。

「壁画」 鈴木尋亀

バンクシーを彷彿させる謎のストリートアーティスト・X。彼が街角のあちこちに書き残した絵の内容は、その後、必ず現実になるという設定は面白いですね。Xの作品は現代文明に対する痛烈な批評だということになるのだと思いますが、その内容は、もっともっと大胆に遊んでもよいのではないでしょうか。読者が驚くような発想があれば、ラストはもっと楽しめると思います。

「シロの遺産」 大乃 心

飼い犬と言葉が交わすことのできる「全自動犬語翻訳機」が開発された世界。ちなみに、「猫語翻訳機」もあるが不人気だという理由が楽しいですね。たわいない展開の話ではあるのですが、妙なおかしみがある作品でした。犬の恩返し的な話でもあるので、飼い犬がなぜそこまで主人に尽くそうとするのか、そのあたりを、前半に織り込んでおいてもよかったかもしれませんね。



その他、印象に残った作品は――

「田中の筆箱に関する不思議」(甘水 甘)/なんの変哲もない旧友の筆箱からは、不思議に誰かが必要とするものがなんでも出てくる。その秘密を探ろうとすると――。謎めいた展開は楽しいですが、後半の種明かしには、もっとインパクトがほしいですね。

「ありすの遺言」(井川林檎)/母の再婚でできた義理の妹は病弱な美少女だが、とことん性格が悪かった――。このしょっちゅう死にかけている少女ありすの人物造形が見事で、彼女の悪口雑言をいつまでも聞いていたい気持ちになります。あとはショートショートらしい驚きをプラスできれば……。

「蜜柑の妻」(吉岡幸一)/みかんとの夫婦生活という奇想小説。このアイディアで最後まで読ませる筆力は買いますが、次はどうなるんだろうと読み手を引っ張れるような事件(ストーリー)を展開してほしいですね。

「村の遺酒屋」(西木勇貴)/さまざまな形の墓が村の観光資源になってゆくという発想は面白いですが、それならば、墓そのものをもっとバリエーションに富んだユニークなものにしてほしいですね。また、オチをより生かすには、伏線を張っておいてほしかったです。

「百つ星ホテルへようこそ」(見坂卓郎)/亡き妻が予約してくれた極上のホテル。訪れてみると、そこに待っていたのは――。温かい読み心地で好ましい作品ですが、ショートショートとしては、もう一つひねりがほしい。なぜ主人公にだけなかなか妻の霊が見えないのかなど、細かい点にも説得力を持たせて描いてほしいところです。

「臨月」(上原透子)/胎内の双子の交流を豊かな想像力で丹念に描写していて、雰囲気を作るのがうまい方だと思いました。「遺言」の渡し方に、なにかもうひとつアイディアがプラスされると、より印象深い作品になったのではないでしょうか。



そして、今回の入選作は――

小狐裕介さんの「真珠の遺言」夏川日和さんの「いってきます」坂入慎一さんの「会いたい」里田遊利さんの「情報汚染」藤田ナツミさんの「海を漂うユィゴンよ」の5作に決定しました。おめでとうございます! 皆さまにはこれよりご連絡させていただきます。なお、掲載までに少し手を入れていただくご相談をさせていただくかもしれませんが、その際には、どうぞよろしくお願いいたします。












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